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世捨て人の熊野紀行 【6】

  那智の滝にて


北海道から、特急列車・航空機・特急列車、そして借りた自転車と乗り継いで、

南紀新宮の神倉神社まで、辿り着くには24時間かかりました。

急な鎌倉積みといわれる石段を攀じ登り、
朝の神倉山から熊野速玉大社へ参拝し、
熊野灘からの光に導かれるように、
伝説の徐福宮とか、中上健次の墓へ立ち寄り、
中辺路沿いに那智勝浦へ各駅停車で移動し、バスに乗り、
そしてまた石段を攀じ登り、
「骨身にしみる」という言葉を実感するように、足は諤々となって、
熊野那智大社へ辿り着いたのです。

西国巡礼三十三所第一番青岸渡寺で、
役小角さまの像に願掛けて、役行者さまに導かれるように、
那智の滝・飛瀧(ヒロウ)神社の御神体を仰ぐことが叶ったのであります。

  役小角(えんのおづの)=通称「役行者」。
  大和國葛城上郡に生まれ(634〜706
  那智の滝にて修業し大峰山を開かれた修験道の開祖であります。


――こうして、みずからを納得させるように、

ひとつひとつ手順を踏んで仰ぐ那智の滝は、
まさに神々しくも圧倒的な存在で迫ってくるのでした。


いにしえより尽きる事のない水流の中に、
ひとは絶えることのない生命の根源を見出してきました。
激しくも奔放に岩に飛び散る水飛沫。

その自然現象の刹那に浮かび上がる幻影。
ひとびとは霊的なモノをそこに観止めて崇めたのです。

しかし、その幻影は、すべてのひとに観える訳ではないのです。

滝を見ても、例えばそれは世界遺産で有名な「那智の滝」であり、
ガイドブックに掲載されていた「那智の滝」でもあります。

――ええ、うっそー。アタシには何も観えない。
でも、安心していいのです。
そのために、神社・仏閣はありますから。


しかし、そういう固定概念を取り払った時、

瀧は瀧として、本然の姿をはじめて顕わすかのようでした。
――水飛沫の中に浮き上がる高貴なお二人の人影は、
熊野御幸を重ねた院の御姿のようにも観え、


――また、その御姿が、いつしか、
西方を仰いで瀧に打たれる僧の御姿に変わっています。



やがて瀧には陽光が差し込んで、

その刹那、岩盤には、
おおきな飛瀧権現さまの御姿が浮かび上がりました。



■世捨て人の熊野紀行
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