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世捨て人の熊野紀行 【14】 

  南方熊楠邸を訪ねる

・・・そういう訳で、闘鶏神社を背にぶらぶらと歩いていると、

道路標識は「南方熊楠顕彰館へ」とあるので、
田辺のお屋敷町を道なりに行くと、南方熊楠邸はすぐにあった。



――おお、立派な邸宅だ。
しかもおおきなクスノキがある。流石である。

お隣りのたいそう立派な南方熊楠図書館で、

手続きをして、さっそく南方邸を訪問した。

――ごめんください。
玄関らしき場所で声を掛けるが人影はない。

――留守かしら。と裏庭へ廻るとスタッフの方がいらした。

――突然、お邪魔致します。

と言いつつ、瀟洒に手入れのゆき届いた庭の、

鮮やかに葉を広げるオオタニワタリが、不意打ちに似て目に飛び込んできた。


――すばらしい庭ですね。

   わたしはこの葉っぱにいま感動してしまいました。

   写真撮ってもいいですか。


――どうぞどうぞ。

――そうですか。ここがお台所。

――そうですか。ここがお便所。なるほどねえ。

そんな感じで、南方邸を見学したのである。


だいたい他人の家を覗くのは楽しいものだが、

しかし、その庭へ一歩を踏み入れると、
ここはそういう、

いわゆる観光名所のひやかし半分の場所ではないのだぞ。

という事が瞬時に納得された。


家のあるじは、疾うに逝ってしまったが、

あるじ亡き庭の草木は、いまなお四季を迎えて生きている。

隣りの図書館では、世代を超えて熊楠の研究が続けられている。


南方熊楠の、この土地への思いを、
いまは地域の人々が受け止めて、

その思いが庭の一木一草にも込められていると思うと、

庭へ一歩を踏み入れた時の驚きも、あらためて納得出来るのだった。


学生の時、なんだかチンプンカンプンであった『十二支考』も、

いま読めば少しはわかるかもしれない・・・。

いや、そう甘いものではなかったが、

――ならば、気合を入れて、

わたしなりに、南方熊楠のイメージを重ね合わせて、

熊楠の書斎写真をバッチリ撮らせてもらおう。




■世捨て人の熊野紀行 【15】 

  犬も歩けば
・・・

――「南方熊楠顕彰館」の庭は、

京都の禅寺の「名庭」を見飽きたわたしに、新鮮な感動を与えた。


充実した気分で、熊野水軍が出陣したという、扇が浜へ出れば、

日本情緒の松林のなかに立派な蘇鉄かなこれは。


こういう北海道では見慣れない景色にも、南方熊楠の風土を感じて、

わたしは影響されやすい人間なのだと自分でも思った。 

犬も歩けば・・・ではないが、オヤジも歩けば謎にあたる。

こうして、ゆく先々で、知らなかったいろいろを眺めて、

あれこれ考えてみれば、「旅」は帰ってからも楽しい。


――例えば、「闘鶏神社」と書いたが、

正確には「闘●神社」と書く訳で、なんで「鳥」は「隹」なのか。 

なんて思って、ぺらぺらと本をめくっていると、

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

    梅原】 今の「隹」(ふるとり)というのはやっぱり鳥ですか。

       「鳥」と「隹」は同じものですか。

 

     白川】 「鳥」はね、特別の、例えば星の名前を言う時には、

       「鳥星」といって、「鳥」を使う。

       特に神格化されたものに「鳥」を使います。

       「隹」は一般的なトリです。

  

      梅原】 こっちの方(「隹」)が一般的なトリなんですか。

              いまは逆になっちゃったなあ。

    
  
白川】 だけども「隹」の方はしょっちゅう使う訳でね。例えば、

       これからどうするか、進んで行くかどうするかという時にね、

       道で鳥占いをやる。これ、「進」むという字です。

  

     梅原】 鳥占いをするんですか、ああ。

 
   
白川】 祝詞をして、これをやってよろしいか、するとよろしい。

       承知したという意味になる。それが「唯」の意。

        
         ――『呪いの思想―神と人との間』対談 白川静・梅原猛

                (平凡社刊より219頁抜粋)


――そうか、そうだったのかと。

「闘鶏」はやはり、「闘●」が正しいということが解って、

「闘●神社」さまは、古で云えば、まあ占いの専門店というところなのだ。


「鳥」はむかし「霊」を運んでくると信じられていたから、

「鳥」という字は、「神」とか「星」とか、

特別な名前の時にしか使わなかったのだという。


それで、トリで占って色々な事を決めたから、

いろいろな漢字には「隹」(ふるとり)が潜んでいるという事が判ったのも、

「闘●神社」さまに、お参りした事がきっかけであったという訳だ。


      (「闘鶏神社」●フルトリを旧ソフトで変換できないので下記の写真を参照)
■世捨て人の熊野紀行
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