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世捨て人の熊野紀行 【19】

 さんまのなれ寿司


北海道から12時間かけて、
スーパーくろしお
17号で終着の新宮へ着くと、

駅前に寿司屋の明かりが見えたので、

そのまま飛び込んだカウンターで、

寿司定食を食べながら、やっと一息ついたのだ。


・・・そうかこちらの鮨も刺身もこういう旨さなのか。

と、北海道とは違う味のニュアンスを愉しんでいると、

もう少し鮨が喰いたくなった。


それでこの辺りのサカナが喰いたい。
と云うと、
今朝あがった「イサギ」と「カンパチ」が出て来た。

イサギは北海道では、あまりお目にかかれないが、

身のしまったほのかな味を噛締めて、ひとり堪能するのも、

やっぱり、ひとり旅だなあ。と思いながらお茶をすすった。


――こうして熊野の旅は始まったのだが、

土地の名物とかを味わいながら過すのもまた楽しい。


しかし、最初の寿司屋さんで、さんま寿司を勧められたが、

咄嗟に、サンマなら北海道よ。
と思って、喰わなかった事が、

帰りの列車を待つホームでは、妙に心残りに思えた。

・・・列車を待つ間、
山の温泉の実家から和歌山へ帰るおばさんが、話しかけてきたので、

やがて来た列車の指定席へ案内してあげた。


自分は眼が悪いから・・・。
キップの券面が見難いとおばさんは弁解するが、

それは、いつの間にかすっかり暮れ泥んだ、暗いホームのせいだろう。


闇を走る列車に身を任せると、すぐに眠ってしまっていた。

突然、和歌山駅で降りるおばさんが、


     ――ご親切ありがとう。

     これ家で造った「なれ寿司」ですけど。


と言って、わたしに「さんま寿司」を御裾分けしてくれたのだ。

こうして、心残りであった「さんま寿司」も、喰うことが出来たのである。


・・・そうか、こういう味のニュアンスなのだ。


北海道のサンマも旨いが、なるほどそれとはまるで違って、

紀州の秋刀魚はサッパリしていて、また旨い。

脂っこくないから「なれ寿司」になるのだ。

味わえばなんとも云えず、味の奥行きがほのかに旨いのであった。


その微妙な発酵のバランスこそ、

古代からとんでもない時を越えて培われてきた、

人と風土との、知恵の結晶なのであろう。


下の写真は、やはり名物「めはり鮨」。
これは、たか菜のオムスビを鮨に見立てた、握り飯なのだが、
駅弁で喰った感覚で、二個くださいといったら、
おおきさがまるで違って、なるほど目を見張ったのだ。

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