www.yosutebito.com
ナキウサギとトマト 

大雪山(ヌタクカムウシュペ)はアイヌ語で、
カムイミンタラ『神々の遊ぶ庭』と呼ぶ。

夏の晴れた日に、
帰省した娘とキャンプをしながら大雪山へ行った。
朝6時台は、先を急ぐ百名山団体ツアー客などでラッシュアワーの様子なので、
それを見送ると、7時台のロープウエイはがら空きなのだ。
この30分から1時間のちょっとした時差で、
山は本来の静けさを取り戻す。

黒岳まで登れば、あとは天候と体力次第。
ロープウエイの最終便の日暮れまで、
可憐な高山植物が咲き誇る、『神々の遊ぶ庭』を逍遥することができる。

コンニチハ。コンニチハ。
お先にどうぞ。お先にどうぞ。と日長一日、
目的を放棄して、引き返せる範囲で逍遥すれば、
カムイミンタラは、刻一刻と、また別な姿を垣間見せるのだ。

それは夏の日の、束の間だけにゆるされる、
至上の楽園でのひと時だ。



御鉢平をぐるりと囲んで時計回りに、
正面の間宮岳・中岳・北鎮岳・凌雲岳・桂月岳・黒岳・北海岳。
よいお天気だから、とりあえず、北鎮岳辺りへ行ってみるか。




そんな具合で、散歩をすれば、
ハイマツの影で、あれ、鹿かと思う大きさの、
キタキツネが大あくびして昼寝している。

ガレ場の岩陰で、「ピチュ・ピーチュ」と声がする。
あれ、ナキウサギさんでないの。
・・・こんにちはナキウサギさん。
・・・登山者さんお先にどうぞ。
・・・いや行きません。写真撮るのです。
・・・という具合なのです。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ところが、先日のピョウタンの滝でも見かけた、
「指名手配」のポスターを、カムイミンタラでも見かけた。

「このハチみたらご一報ください!」=セイヨウオオマルハナバチ。
花に寄り添うミツバチよりもひと回り大きい、
尻に白い特徴のあるこのハチは、
トマトの受粉のために欧州から輸入された「外来種」だ。
そこで、帰ってネットを調べると、

   ミツバチは、ミツを吸う舌の長さが種類によって異なり、
   吸う花の種類も違うと言われるが、
   舌が短いセイヨウは開いた花びらから吸わず、
   横から刺して吸うため(盗蜜)、体に花粉がつかない。
   東大保全生態学研究室によると、
   横に穴が開くと、在来のマルハナバチもその穴からミツを吸ってしまうという。
   花は受粉できず、共生関係が壊れ、植生まで変える恐れがある。
       (asahi.com「恐竜以来の大絶滅時代か・・・」2008・6/10より引用)

トマト収穫の省力化の為に導入された「外来種」が、
栽培用のトマトハウスから逃げ出して野生化し、
生態系の連鎖を脅かす。
生態系の多様性は失われ、
恵庭市ではすでに9割のハチがこの外来種となり、
大雪山黒岳9合目でも発見されているという。

そして廻り廻って、氷河期からの生き残りの、
ナキウサギの餌となる植生をも、脅かしているというのである。


 「・・・農家のおじさんこのトマトのハチは」「ああ、セイヨウじゃないよ。昔トマト」
  「今のとどう違うの」「酸味があって、皮が薄い」「・・・なるほどね」

『神々の遊ぶ庭』カムイミンタラで、
細々と太古から生き残るナキウサギの世界にも、
効率化という名の、人為的な、人間のエゴによる、
グローバリゼーションの負の側面が、ひたひたと打ち寄せる・・・。

■北海道から
Copyright c 2001-2012 Nakayama. All rights reserved.